子供の養育費
未成年の子どもがいる夫婦が離婚した場合は、子どもは父母のどちらか一方と一緒に暮らすのが一般的です。
子どもの監護親は、非監護親に対して、養育費の支払いを求めることができます。養育費は、非監護親の親権の有無に関係ありませんし、養育費の取り決めを行っていなかったとしても請求することができます。
ただ、養育費は未払いとなることも多く、泣き寝入りしている方も少なくありません。
養育費の取り決めはどのように行ったらよいのか、未払いとなった場合どのように回収したらよいのか解説します。
親権を失ってもも親の子を養育する義務に変化はない
未成年の子どもがいる夫婦が離婚した場合、単独親権となり、子どもと一緒に暮らさない親は親権を持たないこともあります。
親権を持たない親は子どもと疎遠になることも珍しくありません。
しかし、親権を持たない親でも、子どもを養育する義務がなくなるわけではありません。
令和6年民法改正により新設された民法817条の12・1項には、「父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。」と定められています。
この義務は、夫婦が婚姻関係にあるかどうかや、親が子の親権を有するかどうかに関わらず、親が負うものです。
養育費は監護親が当然に請求できる
養育費は離婚時や離婚後に養育費の支払い方法や額について取り決めを行っていないと、支払いを受けられないこともあります。
令和6年民法改正により、法定養育費制度が導入されたことにより、子どもを監護している親(監護親)は、養育費について取り決めを行っていなかったとしても、他方の親(非監護親)に対して、最低限の養育費の支払いを求めることができるようになりました。
法定養育費の具体的な額は、「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」とされています(民法766条の3・1項柱書)が、詳細は今後決まる見通しです。
厚生労働省が行った「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」によると、養育費の取り決めを行っている世帯は、母子世帯の母では46.7%、父子世帯の父では28.3%となっており、取り決めを行っていない世帯の方が多い状況にあります。
取り決めを行っていない理由としては、
- 相手と関わりたくない
- 相手に支払う意思がないと思った
- 相手に支払う能力がないと思った
といった消極的な理由が多く挙げられています。
父子世帯の父の場合は、「自分の収入等で経済的に問題がない」という理由も多く挙げられますが、母子世帯の母ではその理由を挙げる人は少ないです。
母子世帯の母を中心に養育費を必要としていても請求すること自体をあきらめているケースも多いようです。
法定養育費制度が導入された後は、非監護親に経済力がない場合を除き、当然に養育費を請求できるようになります。
養育費の平均月額・相場
厚生労働省が行った「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」によると、1世帯ごとの養育費の平均月額は次のとおりです。
世帯 | 総数 | 1人 | 2人 | 3人 |
---|---|---|---|---|
母子世帯 | 50,485円 | 40,468円 | 57,954円 | 87,300円 |
父子世帯 | 26,992円 | 22,857円 | 28,777円 | 37,161円 |
子どもが多いほど、養育費の額は増えますし、また、母子世帯の方が請求額が多い傾向があります。
養育費の計算方法
上記で紹介した養育費の平均月額は、すべての世帯に当てはまるわけではありません。
実際の養育費の額は、父母の経済力や資力により異なります。
養育費の計算では、家庭裁判所が作成した「養育費算定表」を用いるのが一般的です。
養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
例えば、
- 父の給与収入 500万円
- 母の給与収入 200万円
- 子ども1人(14歳以下)
この場合は、4万円〜6万円が一般的な養育費の額になります。
- 父の給与収入 500万円
- 母の給与収入 200万円
- 子ども3人(全員14歳以下)
この場合は、8万円〜10万円が一般的な養育費の額になります。
なお、養育費算定表は、健康な子どもが公立の学校に通っているケースを想定して金額が設定されています。
そのため、子どもが病気がちで医療費がかかる場合や、私立の学校に通っている場合などは、その額がさらに上乗せされることもあります。
養育費の未払いを防ぐには?
養育費の取り決めをしても未払いとなるケースがあります。
養育費を負担する親の収入が減ったり、子どもとの交流が減って疎遠になってしまうと、養育費の支払いが滞ることもあります。
養育費の未払いを防ぐにはどうしたらよいのか解説します。
離婚協議書は必ず作成する
養育費は、取り決めを行わなくても請求できるようになりますが、やはり、離婚協議書を作成して、具体的な養育費の額や支払い方法、支払期日を定めた方が確実です。
離婚協議書を作成しておけば、実際に養育費が未払いになった場合も、それを根拠に養育費の支払いを求めることができます。
離婚給付契約公正証書を作成する
養育費の支払いの合意を交わしていても、相手が支払わない場合は、裁判手続を経た上で、強制執行により相手方の給与や預金を差し押さえて回収するといった手段を講じなければなりません。
離婚協議書だけだと様々な裁判手続きを経ないと養育費を確保できないため、費用や時間がかかることから泣き寝入りしてしまうこともあります。
こうした事態に備えて、養育費の支払いの合意については、公正証書を残すことも有効です。
離婚給付契約公正証書を作成し、強制執行認諾条項を盛り込んでおけば、養育費が未払いとなった際は、その公正証書に基づいて、強制執行に踏み切ることができます。
養育費請求調停を利用する
離婚時に養育費について話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てましょう。
離婚時に養育費の取り決めをしない理由としては、「相手と関わりたくない」という理由を上げる方が多いですが、調停ならば実際に話をする相手は調停委員なので、相手と直接顔を合わせる必要はありません。
調停委員を介して、相手方との話し合いを進めていき、双方が合意に達すれば、調停調書が作成されます。
合意に至らず、調停が不成立になった場合でも、自動的に審判手続が開始され、裁判官が必要な審理を行ったうえで、審判を下してくれます。
養育費について調停調書や審判書が作成されれば、これを基に相手方に養育費の支払いを求めることができますし、未払いになった場合も、すぐに強制執行に踏み切ることができます。
まとめ
子どもの養育費は、監護親が非監護親に対して当然に請求できる権利です。
未払いとなるケースやそもそも養育費の取り決めをしていないケースも多く、トラブルも発生しやすいのが実情です。
養育費の取り決めをしていなかったり、未払いで困っている場合は、一人で悩まず、早めに弁護士に相談してください。